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理念と信念

あなたには素直に師匠と呼べる人はいますか。
一目置くライバル
とか、
心から尊敬できる先生
とか、
なにか行き詰まったときに、
教えを乞うことのできる存在。
いるならラッキー。
あるいは
あなたには座右の書があるか。
座右の銘でもいい。
何度も励まされたことのある好きな言葉とか。
しんどいときにいつも頭に浮かぶ歌のフレーズとか。
あるならラッキー。
人生でいちばん辛かった体験は何でしょう?
そのときの辛さに比べたら、
他の辛さなんて辛いうちに入らないほど、
むちゃくちゃに辛かった時期。
あったならラッキー。
──そういうのはぜんぶ、
自分の心がブレないための礎になります。
ほんとうは自分の人生体験から掴めたらいちばんいい。
100%オリジナルな自分だけの大切な想いがあるのがいちばんいい。
絶対的な中心感覚を自分に与えてくれるもの、
強さの源泉です。
自分の人生体験からそれを得るためには、
かなり特殊な体験が必要でしょう。
素振りしたり走りこんだりしないと肉体の筋肉が鍛えられないのと同じ。
質的にも量的にも尋常ではない体験に揉まれないと、
心の筋肉が鍛えられることはありません。
同じ体験でも、
へたをすると心が肉離れを起こしたり心の半月板が損傷したりしますので、
やはり一定の基礎体力が必要です。
箱庭の中で計画的に餌付けされて育ったような養殖人間は、
もう中小零細企業の手には負えません。
そのまま計画どおりの豊かな老後を楽しんでいただくしかないでしょう。
かつて死にたいほど辛いと感じた体験が、
いまでは己の柱になったということが、
しばしば起こるのが人生です。
そんな心の柱がある人もない人も、
自社の経営理念を徹底的に磨くため、
究極の自問自答をやってみましょう。
あなたはいったい、
なんのためだったら命を懸けられるか?

答は誰にも言う必要はありません。
これは自問自答ですから。
自分にだけこっそり、
だけど100%正直に答えてください。
答えられたらラッキー。
(ё_ё)
あなたの愛する家族のひとりが、
治療不能の難病に冒されて余命半年と宣告された。
ある日、
悪魔が地上に舞い降りて、
あなたの命と引き換えなら、
その病気を治してやる
という。
あなたは自分の命を悪魔に捧げられるか。
腎臓のひとつやふたつなら差し出しても惜しくないあなたでも、
さすがに命を取られるとなるとどうだろう?
>娘の命を助けるためなら、
>自分の命なんて惜しくない!

‥‥ですよね。
でももしそれが、
おとうさんの命だったらどうです?
>えっと‥‥
>父はもう71だし、
>難病じゃなかったとしてもどうせ長くはないし、
>せっかく保険も積み立ててる。
>それに、
>わたしが死んだら子どもたちは誰が育てるのか?
>ってなわけですからスンマセン。
>おやじの命、
>持ってってください。

‥‥みたいな。
かなり不謹慎な例題になってしまったが、
ばかばかしいと思わずに、
たまには突きつめて考えてみませんか。
いったい何のためならば、
あなたは、
何の見返りも求めず、
自分の命が燃え尽きるほどに、
全細胞を煮えたぎらせることができるのか。
過去にひとつでも、
自分が死にもの狂いで食らいついたものがあるか。
ないか。
──すべては、
自分の心をブレさせないための整理です。
さとりが必要な理由もまた、
とどのつまりが自分の心をブレさせないため、
というところに収束するのかもしれません。
使命
というコトバは「命」「使う」と書きます。
やっぱりね、
「まさか」というときにもブレない強い心をつくるには、
命と向きあうところまで突きつめておく必要があるんじゃないですか。
わが命を賭してまで守りたいものは何か。
そんなもんが3つも4つもあったりしませんよ。
5つも6つもあるっていうならそれはきっとウソですよ。
政治家ならそれでもいいかもしれないが
中小企業家はダメ。
どうですか。
>命がけでやれよ!

上司が発破をかける。
>はい、
>死ぬ気でがんばります!


部下が応じる。
ま、
言葉のアヤってもんですから、
あなたの会社が毎朝そんな調子だったとしてもちっともかまわないんですけども、
とか死ぬとか、
そういう単語を軽々しく口にするのはいかがなもんでしょうね。
>おまえ、
>あしたほんとうに死ぬんだよ。


告げられて、
>あ、そうですか。
>短いあいだでしたがお世話になりました。

と、
平然と答えられるか。
答えられるならラッキー。
(ё_ё)
経営理念を成文化するまえに、
あなた個人の信念を顧みてください。
信念
って、
なんなんでしょう。
「経営理念」という言葉はあっても「経営信念」とは言いませんもんね。
理念はみんなのもの。
信念はひとりひとりのもの。

理念は外にあって向かっていくもの。
信念は内にあって己を理想へと向かわせてくれるもの。

理念はこれから実現される理想的境地を含んでいるが、
信念はすでに固められた確定的な想いのみ。

──ざっくりコントラストをつけてみますと、
まぁこんなところでしょうか。
理念は組織のもので信念は個人のもの
といっても、
「わたしたちの信念」という表現はまちがいではないし、
日本語として意味を成します。
ですがただし、
信念の共有と理念の共有とでは重みも深みもちがうんですね。
経営理念に信念をこめてください。
ごまかせない何かです。
そうでないと、
意味はわかるがちっとも響かない経営理念になってしまいます。
(ё_ё)
イナゴ食品(仮称)の北川さん(仮名/38歳)は、
創業100年を超える老舗の四代目社長。
中小企業家同友会が主催する今期の経営指針成文化セミナーに参加、
うんうん唸りながら悩みに悩んだ末に、
ようやく第一号の経営指針書を完成させた。
イナゴ食品にはこの100年間、
理念らしいものはなかったという。
四代目の若社長が、
一世紀に及ぶ社歴の重みを一身に背負って作った経営理念がこれ──
私たちは食品を通じて、
人びとの幸せな生活を追求し、
お客さまを笑顔にします。
私たちは食品を通じて
安心で明るい街づくりに貢献し、
地域社会を笑顔にします。
私たちは食品を通じて、
共に学び、助け合う環境を目指し、
社員とその家族を笑顔にします。

──なのですが、
なんというか、その‥‥
響かない。
体裁はまとまっているし、
字ヅラは悪くないのだが、
どうにもこうにも
おもしろくない。
いや、そもそも経営理念なんてもんは、
会社の目指す理想形が描かれるものなんだから、
おもしろいとかおもしろくないという次元の話じゃないでしょ
って言われりゃそれまでですが、
わたしとしてはこんなんで終わってほしくない。
北川さんのパーソナリティを知っているからよけい、
口出しせずにはおられない。
(ё_ё)
おもしろくないですね、これ。

そうですよね。

わかってらっしゃる?

ええ、まあ。
10回くらい書き直してるうちに、
なにがなんだかわからなくなって、
頭が煮詰まってる感じで。

「笑顔」っていう単語、
3回もリピートしてますけど、
よっぽど愛着のある言葉なんでしょうね。

ええまあ、
仕事を通じてまわりを笑顔にする
っていうのが基本にありますから。

「笑顔」がいちばんですか。

え?

「笑顔」以上に自分にとって
大切なものはないかという質問です。

笑顔にすべて集約されるんじゃないかと思ってます。
食品っていうのは人間の健康や命に、
いちばんダイレクトに関わるもんなんで。

そのくせ
「健康」「命」も入ってませんが?

だから、
そういうのもみんな、
「笑顔」に集約されるかな、と。

集約っていうのもわかるんですけど、
平たくまとまりすぎてませんかね。

どういう意味でしょう?

「みんなを笑顔にする」なんて、
誰でも言えますよ。
これから独立するっていう青二才の若ゾウにだって
書けてしまう文章です。

誰にでも伝わるような表現を考えていたら、
こうなってしまいました。

「明るい街づくり」もですか?

地域貢献の意識も大切だと思って。

実際に何か取り組みをされてますか。

まぁそうですね、
年末の餅つき大会とかですけど。

そこに譲れない何かがあるんでしょうか。

いえ、
そこまでの想いはありません。

じゃあ外してください。

え?

深いこだわりがないなら、
そんな言葉は経営理念に入れないほうがいい。

でも、
会社としては地域貢献も必要でしょう。

だからといって
魂の抜け殻みたいなきれいごとを並べてもしょうがないし、
少なくとも
自分に響かないなら言わないほうがマシです。

そんなもんでしょうか。

中小企業ですからね、
経営者自身が入りこめないような理念なんて、
役に立ちませんわ。
あるていど個人的な信念と重なるようにせんとね。

個人的な想いなんて、
入れたらあかんと思ってましたが。

あなた自身がこれで納得だというなら、
この経営理念でも満点なんですけど、
どうやらそんな感じじゃないじゃないですか。
社長のあんたが首をかしげてる。
そんなんで会社がまとまりますか?
創業者の想いもぜんぜん感じられませんが。

親子の会話もあまりないくらいなので。
100年も昔の創業のことは何も知りません。

でもね、
精神的な支柱がひとつもない会社が、
100年も続くとは思えませんのでね、
なんかあるでしょ、
それとなく昔から伝わっている社訓とか。

ああ、たしかに、
経営理念というかたちのものはありませんが、
社訓ならあります。
何代目からのものかわかりませんが、
ずっと応接室に書が飾ってあります。

どんなんです?

はい、
>財を遺すは下 業を遺すは中 人を遺すは上
っていうやつです。
これなら社員もみんな知ってます。

いいじゃないですか。
後藤新平っていう人の有名な言葉ですよね。
短いけど響きます。
あなたはこれ、
どう思ってるんです?

ぼくも好きです。
っていうか、
子どものころから何回も聞いていて、
身に染みているというか‥‥、
自宅の応接間にも別の掛け軸に同じことが書いてあって、
なんせ子どものころからずっと見てましたし、
そういえば、
じいさんも父も口癖みたいによく言ってましたし。

そこ、
すごいヒントですよ。

はい、
ぼくもいま、
ちょっと気がつきました

「人を遺すは上」という言葉と、
「共に学び、助け合う」という言葉、
どっちが響きます?

それはもちろん「人を遺すは上」のほうですが。

だったら
「共に学び、助け合う」も抜きましょう。

どんどん壊れていきますね、
せっかくつくった理念が。

想いがこもってないんだからしょうがないでしょ。
あなた自身にはなにか、
座右の銘とかあるんですか。

ないです。
しいて挙げるならさっきの言葉です。

もっと他にヒントないですか。
おじいさんでもひいおじいさんでもいいんで、
崇拝していた人とかモノとか。

あ、
思い出しました。
ありましたわ、座右の銘が。

なんです?

しょくそくせへいしょくそういせい
びけんけんしょくしょくい‥‥

え?
なんなんです?

安藤百福(あんどうももふく)っていう、
カップヌードルやチキンラーメンを発明した人です。
これ、
日清食品さんの経営理念なんです。
安藤百福さんはうちのじいさんと同じ年の生まれなんですが、
この言葉もずーっと社内で伝わってて浸透してるんです。

ちょっと待ってくださいよ、
いま、ネットで調べますから。

規模はぜんぜんちがいますけど、
会社の名前に「食品」がつくんで、
すごく意識してるんですが、
読むたびにシビれるっていうか、
最高の経営理念だと思います。

あー、出てきました、
日清食品の経営理念
これですね。
食足世平(しょくそくせへい)
「食が足りてこそ世の中が平和になる」
食創為世(しょくそういせい)
「世の中のために食を創造する」
美健賢食(びけんけんしょく)
「美しく健康な身体は賢い食生活から」
食為聖職(しょくいせいしょく)
「食の仕事は聖職である」
‥‥なるほど、
おまじないかなんかかと思ったらそうじゃなしに、
すごいパワーのある言葉ですね。

でしょ。
こんなの、物質的に豊かすぎるぼくらには考えつきませんよ。

そりゃそうですわなぁ。
読むたびにシビれるくらい好きだってことは、
よっぽど響いているわけなので、
そこを目指そうというモチベーションは高いんですよね。

もちろんです。

じゃあパクりましょう

え?

偉大な先人からスピリッツをいただくんです。

いいんですか。

いいに決まってるやないですか。
百福さんだって、
また別の先人からちょっとパクってるかもしれへんのやし、
そんなことで誰も怒ったりしませんわ。
それに、
丸ごとパクろうっちゅうんとちゃいますよ。
日清食品さんのこの経営理念のうち、
特に響くところはどこかっていうんです。

いちばん感動するのは
「食の仕事は聖職である」
っていうところなんですけど、
真似したいとすれば「美健賢食」のほうですね。
「賢い食生活」というフレーズがとにかく好きで。

それですやん、それ。
だったら「賢い食生活」を入れるんです。
そのほうが心が引き締まるんでしょ。

はい、
おっしゃるとおり。

しかもそれはあなただけじゃなしに、
他の社員さんにも響くわけですよね。

そうです。
みんな知ってますから。

「食品を通じて人びとの幸せな生活を」
とかいうより、
「かしこい食生活をご提案」
みたいなほうがええ感じなんですよね。

めっちゃいいですね。
あ、
ちょっと待ってくださいよ。
かしこい‥‥ですよね。
「かしこい食生活ご提案業」って、
なんかそのまま自社事業定義にも使えそうな気がしてきました。

なるほど。
じゃあ変えちゃいますよ。

変えちゃってください。

(ё_ё)
イナゴ食品さんの元の理念案は、
テンプレートとしてはよくできてます。
試しに原文の「食品」っていうところをブランクにしてみましょう。
私たちは___を通じて、
人びとの幸せな生活を追求し、
お客さまを笑顔にします。
私たちは___を通じて
安心で明るい街づくりに貢献し、
地域社会を笑顔にします。
私たちは___を通じて、
共に学び、助け合う環境を目指し、
社員とその家族を笑顔にします。

ね、
わかりますよね。
このブランクのところに、
「花」でも「ガス」でも「家具」でも「医療」でも、
適当な商材名を放りこむと
どんな業種の経営理念も即席でできてしまう。
どこの会社にも当てはまるオールマイティなひな形です。
そんなあたりさわりがなさすぎる文言にパワーが宿るかってことを、
ちょっと考えてほしい。
「幸せ」とか「笑顔」とか、
ここには入ってないけど「夢」とか「感謝」とか、
「安全」とか「安心」とか「最高」とか、
きれいな言葉を散りばめたらそれでいいかっていうと、
ぜんぜんそんなことはないんです。
あなたにしか語れないオリジナルな言いまわし

引き出してみましょうよ。
あなたが積み上げてきたもの、
通ってきたルート、
親父さんなり爺さんなりが残してくれたもの、
他の人には見えないがあなたには見えるもの、
そういうものを整理してみてほしいんです。
二度とふりかえりたくない辛い過去の中に、
えてして、
大切なメッセージが眠っていることがあるってことを、
くれぐれも忘れずに。
ブレないっていうのはすばらしいことなんです。
パワーが全開できてめちゃくちゃ楽。
燃費のいい小型車みたいなもんで、
けっきょく図体だけデカい車よりも長く走れる。
自分の信念(っぽいもの)をそのまま経営理念にしてしまえたわたしは、
めちゃくちゃラッキーなしあわせ者。
そんなふうに考えると、
この汚いツラも伊達ではないなと思うんです。
ずいぶん踏まれたり叩かれたりタワシで擦られたりしたおかげで、
いまじゃ泥をかぶっても毒を打たれてもブレません。
どこからどこまでが顔でどこまでが泥だかわからないくらい、
汚れても汚れても平気の平左衛門。
たいていの毒には免疫ができてますし。
(ё_ё)
さあいよいよ、
今年も残すところわずか。
当社は第16期が終わります。
アベノミクスの恩恵もあって、
数字の心配をせずにすんだ1年でした。
MG(マネジメントゲーム)でいうところの次繰り(じくり)もできた。
自己資本比率は60%を超すところまで戻ったのではないかな。
おかげさまで仕事は慢性的にオーバーフロー気味。
社員はかなりたいへんでしたけど、
なんだかんだいっても、
数字さえ悪くなければ経営者は気が楽です。
やっぱりいいですよね、増収増益ってのは。
カタカナで大きく書くと──
ゾウ・シュウ・ゾウ・エキ (≡^∇^≡)
──これで当社の黒字は11期連続となります。
これはつまり、
中小企業家同友会に入会させてもらった2003年から
いっぺんも赤字になってないってことでして、
もしかして模範会員?
──いや、冗談です。
来春には新卒採用の2名が入ってきて、
ジジイがせっかく築いた秩序を引っ掻きまわしてくれることでしょう。
ありがたや~


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